林真理子さんの本はとても読みやすく、幅広い年代の方に読まれるだろうなっていつも思います。20代の前半から私は数々の林さん作品を読んできたのですが、これは指折でお気に入りリストに追加。初めての医療小説とのことですが、林さんが描くこの小説の主人公のような女性ってやっぱり魅力的。
▶︎あらすじ
WHOのメディカル・オフィサーとして、感染症医療の最前線で働く美貌の女・志帆子。離婚した有名美容外科医との過去、さらに野心溢れる病院理事長との大人の関係や、年下の小児科医が秘める熱い想い…男たちの憧憬を一身に浴びながら、キャリアも女も輝かせる志帆子には、決して語られることのない「秘密」があった。そしてある事件をきっかけに、彼女の周囲に、憎悪と疑惑、嫉妬の渦が伝染していく―。純粋であるがゆえに残酷で、ひたむきさゆえに奔放。マリコ文学史上最強のヒロイン誕生。東京、ジュネーブ、アンゴラ、バンコクを舞台に、さまざまな問題を抱える現代医療の現場を鮮烈に生き抜く女を描く衝撃のメディカル・ロマン。
主人公はWHOのメディカルオフィサー。この時点でもう「デキル女」感が満載。そして個人的に医療小説って好きなので、ツボなのはわかりきっていたのですが、またこれがものすごい面白かった。感染症の最前線ということで、何かあれば主人公は世界中に飛ぶ。特に衛生環境が整っていない地域に向かうわけです。日本から若い医師を研修という形で呼び、現場や世界基準の指導をしていくわけですが、やっぱりここでも印象的なセリフが。
研修でWHOに来ている日本人医師に、WHOの支給キットを見せるんだけど。そこにコンドームが入っていて、その医師はびっくりするわけです。その姿をみた主人公がサクッと言う。
「私たちはきれいごとだけでこの仕事をしてるわけじゃないの。奥地入って修羅場くぐって、死ぬかもしれない危険と隣り合わせで働いてるのよ。好きな時に、気に入った男と寝るぐらいの楽しみはなきゃ」
もう、言い切ってる姿が想像できるというか。その心境に共感するというか。もうこういうセリフをサラッと言っちゃうことが素敵(笑)タイトルに「実在モデルがいる」と表現しましたが、正確には本の最後に取材協力でWHOメディカルオフィサーの進藤奈那子さんという方が協力しているということが書かれてあったので、いろいろ調べてみたのです。(ネット検索ですけど笑)
進藤奈邦子 - Wikipedia
進藤さんからこの本について
www.shinchosha.co.jp
私は読み終わった後にこの映像や記事を見つけたのですが、もう1度読み返したくなる(笑)主人公が奔放というか、日本でバリバリ働くキャリアウーマンのイメージとはちょっと違うんです。なんて言ったらいいんだろう。「若いって武器よね」という価値観とは正反対で外国人がよく言う「女は成熟してからが最高にいいよ」っていうそういう魅力。年相応の仕事をして、そしてちゃんとそれが評価され、女性として魅力的に描かれる。そしてそれを素敵だと認める男性陣が登場する。
最後に解説を書かれている方も言っていますが、本当に続編が見たい。連続ドラマみたいに、時間を重ねていく姿がすごく見たいです。それは世界でプロとして地位を確立している日本人女性だからか、いや、それだけじゃない気がする。
私は20代前半に外国系企業にいたので、上司が日本人だけど日本人じゃないみたいな人たちでした。ボスだけじゃなくて、職場環境がそうだったから、20代前半だけど「女は35過ぎてから」ってみんな言ってたんですよね。言われ続けていたというか。それは男性もそう。それって価値観の話で、どっちがいいとかそれが全てだとも思わないけど、私が年齢を重ねることを不利だとか怖いだとか思ったことがないのは「三つ子の魂百まで」精神の「入社後三年の職場環境百まで」という基盤の元に培われたのだと思っていて。だから「女だから」とか「結婚が、出産が」っていう選択肢とか、そういういわゆる日本のバリバリのキャリアウーマンのようなしんどい思いってあんまりしていないと思います。思いつかないから多分していないんだと思う。むしろそういう本を読んで「そんなことがあるのか?!」と思うことも多々。
なんかだからこの本の主人公にモデルがいて、実際に世界で活躍する日本人女性がいて、ちょっと小説的に脚色はあっても。雰囲気がそれを裏切らない感じがものすごいいいなと思います。仕事をしているとどうしても視野が狭くなりがち。だけど世界は広いんだっていうのを自分でも知っていたいなと思うのです。あぁ、そう思うと20代前半の何もわからない私に、いろいろ教えてくれた当時の同僚やボスたちに改めて感謝する。当時の同僚、チームメンバー10人ぐらいだったのですが、今SNSが普及したことで改めて繋がって。そしたら3人国際結婚、5人独立して会社経営。やっぱりそういう人たちが集まってたんだなと10年以上経って気がつく。
久しぶりにみんなに会いたくなる、そんな本でした。